朝の花のつもりで
7月のなかば、小田原に用があり、少し早い電車に乗りました。
蓮は朝の花だと聞きます。涼しいうちに堀を一廻りして、それから遅い朝食にしよう。そのくらいの心づもりでした。
雨模様と聞いていたのに、車窓の川面は穏やかに晴れています。暑い一日になりそうでした。
探蓮
蓮の区画に着いたのは、9時になる前です。ここの蓮は早朝に開いて昼には閉じると聞いていましたから、時刻としては間に合っているはずでした。
歩くうちに、視界がひらけました。堀は一面の緑です。丸く張った葉が幾重にも重なって、水は下に隠れて見えません。積まれてどれほど経つのか、脇の石垣の割れ目から羊歯が垂れています。遠くには夏の空。思わず目を細めました。

さて、ここから花を見つけられるものか。探梅ならぬ探蓮と洒落込んで、歩き出します。それにしても、暑い。まだ朝のうちだというのに、日差しはもう真昼のものです。
見渡すかぎり、葉。花らしいものは影も形もない。蝉も鳴かず、風もありません。静かでした。静かで、まだ7月だというのに、自分の肌の焼けるチリチリという音が聞こえるようでした。
ずいぶん奥のほう、葉の陰に、それらしい色が1つだけ覗いています。精一杯引き寄せて撮ろうとしましたが、うまくいきません。

藤棚の下の人
区画の端まで歩いてみました。変わりません。藤棚の下に、三脚のついた写真機を担ごうとしている男性がおりました。帽子をかぶり、汗だくです。声をかけてみると、この付近は全然見えない、最近は暑いので季節が先に進んでいるのではないか、とのことでした。
諦めて、諦めきれず
もういい、狙っていた喫茶店へ行こう。そう決めて歩き出しました。決めたはずなのに、さきほどの1輪がまだ気にかかって、また立ち止まります。角度を変え、しゃがみ、また立ち、撮っては消し。白状しますと、後で数えたところ、この9分のあいだに14枚撮って、1枚も残しておりませんでした。
日陰
区画は丁字の形をしていて、私が歩いていたのは日の当たる側でした。喫茶店へ向かうために、もう一方へ折れます。そこは、木の影になっていました。

咲いていました。1輪ではありません。満開が2輪、散りはじめが2輪、花弁を落としてしぼんだものが2輪、蕾は方々に。青みがかった深い緑の葉の合間に、清涼感のある桃色が浮かんでいます。
蓮の花は数日のあいだ、開いては閉じてを繰り返して散ると聞いたことがあります。その数日が、目の前に一度に並んでいました。
手前には、まん丸の花がありました。コロンとして、花弁の先が絹の袋を絞ったように寄っている。この花は、あと何度開くのだろうか。隣の蕾はまだ硬そうですが、先だけが薄く色づいていました。

開いた花の内側を、これほど近くで見たのは初めてです。花弁は根元が白く、先へゆくほど桃色を深めます。中心には黄緑の平たいものが据わり、そのまわりを金色の糸のようなものが囲んでいる。蓮の名は「はちす」に由来すると聞いていましたが、なるほど、この黄緑は蜂の巣によく似ていました。
日の当たる側では葉の陰にしか見つからなかった花が、日陰では、こんなにも開いていました。
蓮メモ
- 場所:小田原城址公園の南堀(南曲輪南堀)
- 時期:例年7月上旬から8月上旬
- 時間:早朝に開き、昼には閉じます
- 探し方:日の当たる側に見えなくても、日陰側まで回ってみること
- この年の7月なかばは、満開が2輪、散りはじめが2輪、しぼんだものが2輪、蕾が方々に、という具合でした
- 堀の周りに日陰は多くありません。帽子と水をお持ちになるのが賢明です
- 開花状況は小田原城の公式サイトに写真つきで載ります(開花情報ページ)
おわりに
探して、見つからなくて、探す場所を間違えていた朝でした。それでも、会えました。粘ってみるものです。
日陰を出ると、また日向です。けれど来たときとは違って、喫茶店までの道を急ぐ気は起きませんでした。

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