券売のページを開くと、同じ日の同じ演目に6段階の値段が並んでいます。上と下では6倍の開きがあり、どれを選べばよいのか、初めてでは見当がつきません。
私も同じところで止まりました。先日、スーパー歌舞伎『もののけ姫』を観に新橋演舞場へ行ったときのことです。歌舞伎そのものが久しぶりで、結局、坐ったのは1階の後ろのほうでした。

料金には階段がある
私が観た公演の場合、料金は次のように分かれていました。
- 桟敷席 18,000円
- 1等席 17,000円
- 2等A席 10,000円
- 2等B席 6,500円
- 3階A席 6,500円
- 3階B席 3,000円

公演によって金額そのものは変わりますが、この「階段」の作り方はおおむね共通しています。前売が始まっていた『リア王』の料金表を劇場で見かけたのですが、桟敷15,000円、1等14,000円、2等9,000円、3階A席5,000円、3階B席3,000円。

上のほうは公演ごとに動く一方で、いちばん下の3,000円は動いていません。中ほどが上下するだけで、下端は据え置かれている。ここは覚えておいてよい数字です。
さらに、30歳以下の方には「U-30チケット」という仕組みがあります。『もののけ姫』と『リア王』では、公演当日に残席がある場合に限り、全等級の当日券が半額になります。3階B席なら1,500円ということです。残席はチケットWeb松竹で確認でき、当日の午前10時から新橋演舞場の切符売場で販売されます。顔写真付きの身分証明書が必要です。実施の有無や条件は公演ごとに異なるため、観たい公演の案内を確かめてください。
なお、一幕だけを安く観る仕組みは歌舞伎座の一幕見席です。新橋演舞場には一幕見席はなく、全席が通し券です。混同されやすいところなので、念のため。
1階から見えたもの、見えなかったもの
私の席からは、花道がよく見えました。役者が揚幕から出てくるところ、七三で止まるところ、引っ込んでゆくところ。歌舞伎で花道が使われる頻度を考えると、これは1階の大きな利点です。

ただし、この日は「宙乗り」がありました。役者が舞台から花道の上を飛んでゆく演出です。
飛び立つところまでは追えました。そこから先は、上を向いても届きません。1階の上には2階席がせり出していて、その庇に隠れてしまうのです。首を伸ばしているうちに、頭上を通り過ぎる気配だけがして、拍手が起こりました。
宙乗りの行き先は、3階席の脇にある鳥屋口だそうです。つまり3階にいれば、役者が下から上がってきて間近まで来ることになる。券を買うときに、その演目に宙乗りがあるかどうかを調べておくと、選び方が変わります。
3階席については、花道はほぼ視界に入らないと聞きます。そのかわり舞台全体が一望でき、大勢が出る場面では人の配置や動きの流れが下の階よりも読めるとのことです。私は坐っておりませんので、ここは受け売りとして書いておきます。
- 花道を見たいなら1階
- 宙乗りがあるなら3階
- 大勢の出る演目の全体像を見たいなら3階
このくらいの見当で、まずは足りるのではないかと思います。
なお、演舞場に双眼鏡の貸出はありません。上の階を選ぶなら、持参するものと思っておくほうが確実です。
服装のこと、一人で行くこと
服装は何でも構いません。普段着の方がほとんどです。着ていくものを迷って足が止まるくらいなら、そのまま出かけてよい場所です。
お一人の方も普通にいらっしゃいます。幕間も、弁当を広げていればそれだけで時間が過ぎますので、手持ち無沙汰になることもありません。
開演前の一服
演舞場の真向かいに、「茶房 絵李花(えりか)」という喫茶店があります。黄色い日よけが目印で、開演前の時間つぶしにちょうどよい場所です。支払いは現金かPayPay。夕方には閉まりますので、夜の部の前に寄るなら早めに。


開演までの時間に、プリンを頼みました。卵と牛乳と砂糖だけの、昔ながらの硬く蒸し上げたものです。匙は先が浅く、片方が平たくなっている。すくうのではなく切って食べる物なのだと、持ってから知りました。

皿に溜まったカラメルは甘さを主張せず、卵の香りが立つところを香ばしさで受けています。
開場したら、まずすること
開場の時刻は演目によって違います。私が観た回は、開演の30分前でした。
まず、大きな荷物を預けてしまいます。コインロッカーは各階にあり、ロッカーに入らない荷物は1階の受付で預かってもらえます。往きも帰りも身軽になりますし、この後の理由でも、荷物は少ないほうが助かります。
次に、2階のそば処と食堂を使うつもりなら、この時点で予約をします。当日に劇場内で受け付ける仕組みですので、開場したらまず1階、そのまま2階へ、という順で動くと迷いません。
そして、席に着いてしまいます。ここが案外いちばん気を張るところで、座席の前は狭く、すでに坐っている方の膝の前を横向きに抜けてゆくことになります。足元に荷物を置いておられる方には、それをどけていただくことになります。早めに入って先に坐ってしまえば、この手間がまるごと消えます。
私はお手洗いとお弁当の購入を兼ねて、開場と同時に入るようにしています。
上演時間は、一幕が1時間30分、幕間が35分、二幕が1時間35分。合わせて3時間40分でした。幕間の35分は、おそらくお弁当に使うことになります。
ちなみに遅刻すると、演目によっては途中で入れない時間帯があります。しばらくロビーで待つことになりますので、当日の予定は余裕をもって組んでおくほうが安心です。
イヤホンガイドを借りるか、借りないか
劇場の前に、イヤホンガイドの立て看板が出ています。1階のロビーで借りられます。

これは初めての方にはよく効きます。筋の説明はもちろん、衣裳や道具の由来、聞き取りにくい台詞の補足まで入ります。私も今回借りて、開演前から降りていた森の幕が、印刷でも映像でもなく手描きであると知りました。知らずに見ていたら、ただの背景として通り過ぎていたはずです。
ただ、失うものもあります。片耳が塞がるぶん、場内の空気が拾いにくくなります。客席がどよめく瞬間、笑いが起きる間合い、拍手が始まる呼吸。そういうものの手応えが、私は今回いくらか薄く感じられました。
初めての1回は借りる、2回目からは外してみる。そのくらいの気持ちでよいのではないかと思います。終演後は返却をお忘れなく。

幕間の35分に、何を食べるか
新橋演舞場では、開演前と幕間に限り、客席で食事をとることができます。1階のドリンクカウンターに、その旨がはっきりと掲示されています。上演中の飲食は控えるように、とも書かれています。
売られているお弁当にも、やはり幅があります。
- 幕の内弁当「紫翠」 2,000円
- 公演限定の特製幕の内弁当 1,600円
- 焼き鳥弁当 1,300円
- すみれ 1,000円
- 助六寿司 900円
- 照焼チキンミックス(サンドイッチ) 900円
- 華ちらし 800円

800円から2,000円まで。座って落ち着いて食べたい方には、2階にそば処「かべす」と食堂「雪月花」があり、こちらの幕の内は4,000円です。のれんに紋が染め抜いてありますが、この「雪月花」という名前については、最後にもう一度触れます。

私は公演限定の幕の内をいただきました。折は四つに仕切ってあり、一区画がまるごと煮物です。高野豆腐と冬瓜はたっぷりと出汁を吸い、花の形に抜いた人参といんげんが彩りを添えています。品書きには湯葉とオクラのわさび風味、枝豆ケーキと、名前だけでは味の想像がつかないものも並びます。ご飯は白飯にふりかけ。掛け紙は緑地に桜と麻の葉、湯葉の容器は、劇場の紋を入れた封緘シールで蓋が留めてありました。

幕間は35分でした。食べるにはちょうどよく、のんびりするには少し短い、という長さです。周りの方々もおおむね黙々と箸を進めておられて、幕が近づく頃には皆きれいに片づいていました。

館内のこと
- 化粧室は地下1階、1階、2階、3階。1階には多目的化粧室もあります。幕間は当然混みますので、幕が下りたらすぐに動くか、逆に少し待つかのどちらかです
- 自動販売機が各階にあります。飲み物は160円ほどから
- 売店は1階と2階にあり、公式のグッズ売り場と筋書(パンフレット)は2階です。クレジットカード、交通系IC、QRコード決済が使えます

1階と2階、2階と3階のあいだは階段でつながっています。足に不安のある方は、券を買う前に劇場へ確かめておくとよいでしょう。
終演後の当て
夜の部は19時40分に終わりました。この時刻から食事となると、店の選択肢は限られます。
私はその日、外へ出た途端に激しい雨に降られ、近くの喫茶店へ逃げ込みました。22時まで開いている店で、助かりました。終演後の当てを1軒だけでも決めておくと、慌てずに済みます。
新橋演舞場メモ
- 所在地:東京都中央区銀座6-18-2。東京メトロ日比谷線・都営浅草線「東銀座駅」6出口から徒歩5分、都営大江戸線「築地市場駅」A3出口から徒歩3分
- 周辺の歩道に「30メートル先 新橋演舞場」の道標、交差点に案内標識が出ています
- 客席は1階から3階まで
- 券の購入:チケットWeb松竹、チケットホン松竹、各プレイガイド、劇場の切符売場
- 上演時間と幕間の長さは、当日ロビーの掲示で確認できます

おわりに
最後に一つ。先ほどの食堂の名でもある「雪月花」は、演舞場の座紋です。雪と月と花、三つの眺めを一つにした紋です。歌舞伎では家紋や座紋を大切にしていて、衣裳や簪にあしらったりします。歌舞伎座が改修のため閉場し、演舞場が歌舞伎興行の本拠地となった際には、劇場正面の櫓に「雪月花」を染め抜いた幕が配されました。
言われてみれば、行灯看板にも、のれんにも、弁当の折に挿さっていた札にも、同じ紋がついていました。どこにあるか、探してみてはいかがでしょうか。券の値段ばかり見て入った建物が、少し違って見えます。

公演ごとの詳細は、松竹の公式サイトでご確認ください。
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